Kolejkaogrodowaのブログ

印刷会社のサラリ-マンがコツコツ建設してきた庭園鉄道紹介のブログ

太田 庭園鉄道 建設記 その5 高校時代の挫折(3)

鉄道模型は車輪が無ければ話になりません。鉄道研究会の顧問の先生に相談したところ木型を作って川口辺りの鋳物工場へ持って行けば作ってくれるよ、という話でした。そこで100mm角のバルサ薄板を何枚か直角に貼り合わせ、真ん中に穴を開けて我が家で用済になった洗濯機から外したモ-タ-の軸に取り付け回転させながらヤスリを当て丸い車輪状のものを作りました。普通高校の我々は旋盤を使う機会がないためフランジも木型の段階で立てておきました。スポ-クは無しのベタ車輪です。


その木型を携えて川口の駅に降り立ってみると、すぐに鉄の焼ける匂いがしてきました。そして駅から十数mも歩くとすぐにキュポラのある鋳物工場が目に入りました。しかも何とキュポラから取り出されたスラグ(不純物)のまだ溶融しているのを公衆道路脇に撒いて冷却しているのです。チンチンと音を立てながら次第に固まっていく半透明のスラグは触れば大やけどをしてしまう危険な代物でした。


そんな川口の光景に驚きながらも車輪を作ってくれそうな小規模な鋳物工場を発見し恐る恐る声を掛けてみると奥から真っ黒なおじさんたちが出て来ました。そしてその内の一人が木型を手に取って「ダメダメ、こんな小物はウチではやらないよ。大体フランジを鋳物で付けるなんて無理だ。鋳物っていうのはね砂型に木型をいくつも押し付けて凹みを作り、その全部に湯が流れるよう枝を付けるんだ。冷ましてから枝を切り取るんだが薄いフランジなんか一緒に折れちまうよ」と相手にしてくれません。そうか一個づつ作るのではないんだ、複数の型に同時に溶けた鉄を流して作るのだと知って呆然とたちすくんでしまいました。でも脇でそれを聞いていた一人のおじさんが近寄ってきて木型を手に取りながら言いました。「おじさんにも君と同じ位の高校生の息子が居るんだよ。機関車の車輪を作りたいんだね。じゃあ何とか作ってあげよう」するとさっきのおじさんが「ええっ、どうやってやるんだ」と言うと「一つづつ中心に向かって縦の湯道を付けてどっかで一本にまとめるのさ」と説明します。「そんな手のかかること、今日は社長が居ないからいいけど(見つかったら)怒られるぜ」と言って奥へ行ってしまいました。ああ良かった、親切な人に出会えて、顧問の先生が言った通りだ、と安堵しながら動輪、前輪合わせて12個の鋳造をお願いし帰ってきました。


翌週再び訪ねてみると車輪は出来上がっていました。でも期待したほどきれいには出来ていません。しかも鉄というより表面に鋳物砂が一杯付いています。砂はどうしたらよいですかと言うと例の意地悪なおじさんが出て来て砂拭きをしてくれました。料金はキロ当たり100円ということで1500円ほどで済みました。その後おじさんたちの仕事場を見たのですが、その暗さ、暑さ、汚さ、そして目一杯力を出して重い鉄製品を運ぶ姿に鋳物工場の現実を見ました。良い社会勉強になったのです。

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出来上がった鋳物車輪、フランジは後日旋盤で仕上げを施しています